ちばやま

ちば山の会2000年12月

千葉市中央区弁天町5番地鶴岡方

Tel・Fax 043-255-9821


韓国 インスボン

 先月号の続きです。

 トクハンシーというのは、今回一緒に登った韓国人ガイドです。彼は、白雲山荘に常駐する主席ガイドということですが、何時でもいるわけではないので、予約をしておいたほうが良いです。ガイドの予約は、電話で白雲山荘の宿泊の予約をする時、一緒に言っておけば大丈夫でした。「アンニョ〜 リザベーション(予約) ニンバ(泊まる:韓国語)オクトーバーセブン ブレックファーストアンドディナー トクハンシーガイドプリーズ」こんな感じで充分通じます。ガイド料は、白雲山荘のパンフレットに、1日1万5千円、半日8千500円と書いてあり、その位です。ガイド1人に付きお客3人までということなので、3人ならちょっと多めに支払う様です。ヨーロッパのガイド料は、ガイド協会を通すのできっちりしているけど、こちらは人数に応じて相談ができます。

 さて、10月7日昼12時からです。医大ルートを登って、懸垂で、シュイナードBルートの取り付きまで降りてきました。シュイナードBルートの1P目は、左上するつかみ所のないフレークを40m。2P目は、右へ伸びる細いアンダーフレークの後、細めのクラックを行って、しっかりしたガバがちょっとあって、1本の木を越えて、右のクラックに移ってロープいっぱいの60mです。右のクラックに移るところが難しく、60m一気に登るのはホントに長かったです。登った所が、2〜3人座れるテラスになっていて、この上が詰まっていたので、小休憩です。トクハンシーは、ここでも「アンニョ〜 インスボン〜 クライミーン〜」と彼女に電話をしていました。電話の後は、ザックから、日本語韓国語会話集を取り出して、「ミギ:ウインチョ」「ヒダリ:オインチョ」「ニホンゴベンキョウシテル」と言っていました。3P目は、体がすっぽり入るチムニーを抜けて、右へ出て、ビレー点へ。この先の4P目は、真っ直ぐ上へ伸びるクラックへつなげるのだけれど、福島からきた3人組が上で詰まっていたので、右からスラブを回って、耳岩の基部へ到着。5P目は、耳岩と呼ばれる小さな岩にルートがあり、グレード10b、15mの核心部です。この5P目は、医大ルートの6P目と同じです。ホントに、手も足も置く所がなく、ヌンチャクをつかんで、えい!残置ピンは、スラブにはペツルのようなピンがしっかり打ってあり、フレークとチムニーにはハーケンがあり、クラックにはなんにもありませんでした。核心部15mを登り終わった所が、とりあえずルートの終了点になっています。インスボンの山頂は、ここから5m程懸垂して、3級位の簡単な所を7m位登って、冷や汗の出るちょっとしたスラブを登った5分位の所です。5m程懸垂をする所で、福島の1人がザックを降ろしていて、トクハンシーが、置いてあるザックを指差して、「カゼガヒュー」「ワスレチャウ」と言うのです。さすがガイドの注意力!!と感心してしまいました。でも、風なんか吹いてないから飛ばされることは絶対ないよ。と思っていたら、ところがどっこい、ザックを忘れて懸垂して行ってしまいました。こんな事ってホントにあるんだな。と笑ってしまいました。

 山頂は、日本の小川山のセレクションルートか、ガマスラブルートの終了点みたいな感じで、広くなっていて、20人位がロープを外して休憩していました。山頂には、焼肉を食べている人がいるとか、キムチを食べている人がいたとか、マッコリを飲んでいる人がいたとか、噂に聞いていたけど、そんな人はいなかったです。なんだか残念。福島の3人と、北海道の1人もいて、それぞれが、それぞれに満足していました。3時を過ぎて、トクハンシーから「ミホチャン、ソロソロラッペリング」と声がかかり、トクハンシーの足元を見てびっくり仰天。「ああー靴ないよ。忘れちゃった」「下に、名前の書いてあった靴あったよ」「それ私のだよ」「懸垂してくるのかと思ってたよ」ああ何のためにザックを担いでいたのやら。手振り身振りで「シューズフォゲット クライミングスタートポイント」「ええ〜」トクハンシーには、ちょっとイヤな顔をされたけど、まあ仕方がない。懸垂下降する場所には、大きな懸垂用ピンが埋め込まれいて、皆そこから懸垂していきます。三つ峠の一般ルートのピンと同じ様な大きなヤツです。60mロープ1本2回で、降りられます。そこから、てくてく歩いて、取り付き点までいくと、靴、ありました。朝は、気持ちがあせっていたのか、クライミングシューズに履き替えたとたん、脱いだ靴なんてすっかり忘れていたのです。靴を履き替え、少し行くとトクハンシーが、壁を指差し、「3Pクライミング、フタリイルトコロマデ ラッペリング」と言うので、「難しい?」「ナイン」「オウ レッツゴー」ということで、またクライミングシューズに履き替えました。ここで、もうお腹一杯という位スラブを登り、登り終わるとすぐにスルスルと懸垂で降りてきました。確保支点を補強する手間が要らないのと、トクハンシーが懸垂ポイントを熟知しているのとで、とに角、早いのです。やっと5時を過ぎ、本日のクライミングは終了です。荷物を片付けて、いやらしいガレ場を登ってトイレの前を通って、白雲山荘へもどりました。

 夕食は、昨日と同様、家庭料理が並んでいるといった感じです。昨日は最初の夜で、今日は最後の夜なので、福島の3人と、キムチをつまみに、たくさんマッコリを飲みました。日本語の上手な韓国人が、「今日はどうして、そんなにたくさんお酒を飲むのですか?」と聞くので、「毎日だ」と答えておきました。明日は日曜日ということで、韓国人の高校生や大学生達が20人位、小屋に泊まっていました。夜19時頃、福岡から4人組みが到着し、昼13時に福岡空港を出発したと言っていたので、小川山へ行くより近い気がします。

10月8日  「オリエンタルルート」
 幸せな朝ご飯で始まります。あつあつの豆ご飯と、ゴマ油とツブ塩がたっぷりきいた韓国海苔があるだけで充分なのに、レンコンの炊いたのやら焼き魚やら卵焼き並びます。ちょうど、山荘の家族10人位も、隣のテーブルで朝ご飯を食べていて、どんぶりに盛られたおかずを、長い金箸でつまんでいます。10人みんなが、おかずに手が届く距離というのは、肘があたる距離でもあり、家族仲良く、生活する力強さを感じました。

 8時半頃、白雲山荘を出発し、トイレの前を通りいやらしいガレ場を下って、ちょっと左に行ったオリエンタルルートの取り付きに来ました。今日は、私の数あるクライミングの中で、最も苦しいクライミングとなりました。手に汗握る、額からも汗噴出す、クライミング終了後の安堵感といったら、今までの人生で最大です。1P目は、浅いテラスを2段乗り越えるところがあり、手は、まあるいところに手のひらを押し付けるしかなく、足は、胸の高さにある浅いテラスまで上げるしかなく、エイ!っと力で立ち上がるのです。お腹に力が入らず、あ〜どうしよう〜。やっとトクハンシーのいる所にたどり着き、ビレーの体制を整えます。セルフビレーのメインロープに、60mロープを左右に振り分け、足元は平らじゃないので、ハーネスに体重を預けます。ハーネスで、お腹はますます締め付けられ、う〜苦しい。でも、トクハンシーはそんなことは知らずに「クライミーン」と行ってしまいます。こんな所で、○○○がしたくて、たまらないのです。キムチとマッコリが消化不良を起こして、登り始めたとたん、お腹がキュルキュルときて、トイレに行きたくて仕方ないというわけです。トクハンシーが登るのを眺めながら、体をよじり、足踏みをし、必死に堪えながら、だんだんふらふらになってきます。お腹に力が入らないまま2P目が終わり、既に100mの高さにいるわけで、ここから懸垂してトイレに行くか、登ってからトイレに行くか、空中散布するか悩むけれど、登ってから行くしかないだろうな・・・。3P目は、浅いチムニーで、足を開いて突っ張りながら、肩や背中をずるずると、シャツがボロキレになる様に、こすり付けて登っていきます。途中で疲れたので休みたいのだけれど、突っ張るのを止めると落ちてしまうので、休むこともできず、ずるずると這い上がります。4P目は、スラブ、クラックのどちらからでも行けるそうで、トクハンシーはスラブが好きらしいですが、クラックをリクエストしました。トクハンシーを見ていると、彼の落ちないという自信を感じます。5P目は、スラブで、やっと終了点に到達しました。登り終わったところで、気分は最低で、もう限界という所で、あせらず慎重に急いで懸垂下降して、トイレに駆け込みました。キムチパワーには驚きます。じゅうじゅうでテクタン食べた翌日の状態です。ホントに苦しいクライミングでした。今日は、帰る日なので、サクッと登って、短いルートをもう1本行きたかったのですが、意気消沈なので終わりにしました。11時と早かったので残念でした。

 12時過ぎに、白雲山荘を出発して、麓の町トソンサへ歩いて下ります。トソンサには、お寺があり、お参りする人でごったがえしていました。トソンサからウイドンまでは、すでに2人客が乗っているタクシーに無理やり乗せてもらいました。タクシー代は、良く分からないのだけれど、行きは1000ウオンで、帰りは1800ウオンでした。ウイドンからユスまでは、バスに乗り、途中でおばあさんが乗ってきたので、手振り身振りで席を代わってあげました。韓国人は、電車やバスではお年寄りに必ず席を譲ると聞いていたので、ちょっと真似をしてみました。バス代は、行きはタダ、帰りは600ウオンでした。行きは、払うのを忘れました。ユスから地下鉄に乗り、トンデン門駅で途中下車して、1時間程ぶらぶらしました。市場があるというので、その方向に歩いてみましたが、どこが市場なのかはっきり分からず、露天や店がたくさん並んでいるところで、ウインドショッピングを楽しみました。地下鉄で、トンデン門駅から韓国金蒲空港へ向かい、2時間ちょっとのフライトで、20時過ぎには無事成田空港に到着しました。

 インスボンの岩は、花崗岩で出来ていて、木や草や泥がなく、非常にすっきりと乾いていて、結構滑らないです。ガイドは、初めてのクライミングの場合は一緒の方が、楽しめると思います。今回2泊3日の日程で、クライミングする時間は1日半でしたが、ガイドと一緒だったせいで4本も取りつくことができ、また、すっきりとしたスラブとクラックには、セカンドでも充分楽しめました。ファイブテンのクライミングシューズは、韓国で製造しているらしく、安いそうです。白雲山荘は、井戸水を使っていて、紐が結んである小さいバケツを、井戸の中へ落とし、紐を引き上げてバケツで水を汲むという具合になっていて、好きなだけ水を汲むことができます。ただ、日曜日は多くの人が使うので、濁ってきていました。白雲山荘の宿泊代は、2泊4食シュラフ・マット付きで5千円の格安です。山荘の食事は、美味しいけれど、キムチの食べすぎには要注意ですね。お土産に買ってくる気にさえならなかったです。韓国の通貨ウオンは、日本ではチェンジしていない様ですが、金蒲空港にある銀行で換えられます。クライミングの季節は、6月から10月で、11月は寒いそうです。また、7月は雨が多いらしいので10月がベストの様です。日本の小袋になっている柿ピーなどのお菓子を持って行って、山荘の人や、仲良くなった韓国人にあげると喜ばれました。航空チケットは、安い時期は3万円程度ですが、3連休や週末をはさむと6〜7万円位になります。大韓航空や日本エアシステムは、成田午前発、成田午後着なので、その日の内に白雲山荘まで入れます。ユナイテッドやノースウエスト航空は、成田夕方発、成田午前着なので、ソウルで1泊することになります。インスボンの情報は、2000年岳人9・10月号に最新にものがあります。また、千葉県連に所属する岳樺クラブのHPにも、行き方やルート概要が載っています。まあ、長くなりましたが、こんな感じで、1人だったけど、非常に楽しかったです。



                             文:白石美穂

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