ちばやま

ちば山の会1999年12月

千葉市中央区弁天町5番地鶴岡方

Tel・Fax 043-255-9821


ふれあいハイキングin筑波 前編


 まだ日の昇らない午前6時前の姉ヶ崎駅で、ブラットホームの上をしきりに行き交うカラスの群れを目で追いながら、こんな房総の田舎駅まで東京のゴミ問題を真似ることになってきたのかな、などとつまらないことを考えていると、突然「山に行かれるんですか」と問いかけられた。
 見ると、Dパックを背負った、日の大きな青年である。歩き方をみると障害者であることはすぐ分かる。私がろくに返事をかえす間もなく、青年は今日のふれあいハイキングの参加者であることを告げた。どうやらこの感性の鋭い青年は、登山靴にザックという私のいでたち、電車を待つ時間などから考えて、最初から私をハイキングの参加者と目して近づいてきたようだ。
 青年がザックやウエストポーチなどから、時刻表やらメンバー表やら取り出して見せてくれているうちに、電車がやってきた。
「1号車に乗りましょう。五井で友達が乗ってくるので待ち合わせているんです」
 電車は混んでいて座れなかったが、青年は吊革につかまろうともせず、バランスを保って立っていた。「まだ早い時間なので、こんなに混んでるとは思いませんでした」と笑顔で話す彼を見ながら、身体の不自由な人は座席を求めるものだという私の先入観はさっそく打ち破られた。過去、障害者に接する機会を一度も持たなかった私は、このあとも次々と先入観を打ち破られていくことになる。

 集合場所のNTT前にはすでに大勢の人が集まっていた。しかし、よく見るとちょっとと様子が違う。バスガイドや添乗員と見られる女性が掲げている旗を見ると、「紅葉の谷川岳天神平」とか、「木曾駒ケ岳ロープウエイと千畳敷」とか書いてある。どうやらこの場所はツアーバスの待機所として常用されているらしい。
 一番奥の方に最近覚えたばかりの顔がいくつか見えた。私が声をかける前に「おはよう」と挨拶され、名札をつけるようにいわれた。 リーダーの山崎さんや白石くんは人数の確認に忙しそうだ。慌しいうちに乗車が始まり、座りきれない広木さんは補助イスを倒していた。

 高速道路は思ったより空いていた。守谷サービスエリアで松戸や津田沼からの参加者と合流する予定だったが、松戸が遅れぎみだということで、先に出発することになった。
 高速を下りると、青空のもと、双耳峰の筑波山がしだいに大きく迫ってきた。筑波山は行楽が目的で都合三回来ているが、このようにはっきり見えたのは今日が初めてだ。
 いわゆる裏筑波からアプローチするのだが、車道は途中から狭くなり、バスが上がっていけない。車幅はあるのだが、木の枝などが覆い被さるようにゆくてをさえぎり、終点まで運行できないといわれた。運転手の話によると、枝で車体が傷つくのは構わないが、収納ができないアンテナが折れたりすると修理費がかさむのでカンベンしてほしいとのこと。残念ながら、3kmの道のりを歩かねばならなくなった。
 バスを降りて、靴紐などを縛りなおして準備していると、山崎さんが大鍋をザックに括りつけようと四苦八苦している。女性陣が中心になって、山頂でご馳走を作る計画だそうだ。
 「ちば山」は第10班ということで、一般障害者と車イスの補助を任され、山崎さんは一般障害者のリーダーを、私たちは但野さんをリーダーにした車イス組を担当することになった。
 車イスで参加したのは鈴木さんといって、見ず知らずのにわかボランテイアに身体を預けようというのだから、かなり度胸のある方である。明るい性格で、何よりもいたずらに恐縮しないところがいい。「五体不満足」の著者と同じく、好印象の人柄であった。
 さすがに車イスや歩行の困難な人に登山口までの3kmを強いることはできないと読んでいたのか、主催者は搬送用の車を用意してあった。数台の乗用車に障害者の人達を便乗させて、車道終点までピストンで送り届けることになった。当然のことながら、健常者の私たちはその車を追って坂道をひたすら登る。
 白石・広木組はお喋りをしながらもかなりのハイピッチ。あっという間に集団を追い抜き先頭に立った。遅れまいと柴田・本多・石原もあとに続く。 リーダーは遅れて姿が見えなくなった。
 周りはアカマツが目立つ雑木林で、山頂付近ではプナやミズナラなどが見られるが、この辺りではコナラ、クリ、スギ、ヤマハギ、ネムノキなどが生い茂る薄暗い樹林帯が続く。本多くんが道すがら傍らに咲く白い花の名前を柴田さんに尋ねていた。「これはノコンギク、野菊の墓で有名な花だけど、本多くんは野菊の墓なんて知らないでしょうね。」

 十月も末だというので、花の数は少ない。この裏筑波のコースは春先にはカタクリやスミレが見られ、男体山の北側斜面まで行けばヤマプキソウの群落も見られるそうだが、紅葉時期がせまった山道で見かけた花は、ノコンギクの他にはアザミ、イヌタデ、ガンクビノウ、ミズヒキくらいのもので、平地でうんざりするほど見せられたセイタカアワグチソウも、さすがにこの辺りではほとんど見かけなくなった。
 ただ、終点近くの大曲りで、ちょと見るとウワミズザクラによく似た白い花が、薄暗い林下に点々と咲いていた。図鑑でしか見たことのない、サラシナショウマだった。

野紺菊(ノコンギク)


山野に生育する多年草でいわゆる野菊の一種。地下茎を伸ばしてふえる。茎はよく枝分かれして広がる。葉は卵状長楕円形〜長楕円形でふちに大きな鋸歯がまばらにある。頭状花は直径約2.5cm。淡青紫色の舌状花が並び中心に黄色の管状花が集まる。

後編に続く

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