山スキーツアーを楽しむためのポイント

「遭難・事故を回避するためのノウハウ」       ちば山の会 菊池典雄

1.ゲレンデスキーとの違いとツアーの目的・面白さ

ゲレンデスキー:技術の向上・競技スキーなどを目的とすると面白い
山スキーツアー:自然を相手にするため種々危険性がともなうが、「山とスキーを愛するもの」にとっては素晴らしい経験ができる。ある程度のゲレンデスキー技術が基礎となるが、転倒しないための山スキー技術、シール登行、アイゼン歩行、気象状況の把握、雪質の理解、遭難・事故の回避など、徐々にノウハウを習得する必要がある。ネイチャースキー、深雪のブナ林パウダー、残雪期の大斜面、雪稜、大雪渓、3000北アルプス、富士山など興味はつきない。残雪期には標高差1300~1500mの日帰りが可能であるが、体力維持のため日頃の心肺・筋力(とくに大腿四頭筋)トレーニングが必要。


2.長いツアーシーズン:日本列島の気象状況の理解とツアー適地

ツアーシーズンは11月下旬の立山から、6月初めの3000m北アルプス・富士山の約6ヶ月
@シーズン始め:11月20日前後〜1月初め
始めの頃は冬型も弱く積雪は年により異なる。立山→白乗天狗原・八方尾根上部→神楽など、関東近辺では神楽が最も積雪状況が安定しツアー可能となる。積雪150cm以上は欲しい、少ないと薮がうるさい。シーズン始めに降雪が連日のように続くと下雪の圧雪状況が形成されず底無し的になり注意。笹の上に積もった降雪が圧雪されてない状況は滑走時スキーが笹にもぐる。(1月初めの湯の丸など)妙高・丸沼などの標高の高いスキー場(標高1500~2000m)周辺で新(深)雪練習、ショートツアーがよい。

A厳冬期(1月中旬〜2月中)
積雪量も増加し十分な下雪が形成されるため、標高1000m〜2000m位の山は適地となる。冬型が強く、断続的に続くこともあり、低温・雪崩・遭難に注意。スキー場に近接しているコースが安全。コース選択は気象状況により臨機応変に。武尊・神楽・妙高・黒姫・飯綱山・根子岳・四阿山・草津白根山などの上信越、乗鞍、吾妻・八甲田などでパウダー狙い。時に予想外の気温上昇のため、悪雪・雪崩などに注意。

B初春〜残雪初期(3月初め〜4月初め)
山スキーツアーには最も難しく注意する時期。寒暖が周期的、冬型、低気圧(二玉低気圧など)の強烈な発達に伴う冬型、雪崩の多発などコース選択は慎重に。雪質変化が激しい。林間・北向斜面のパウダーを狙え(アイズバーン上の降雪、弱層には注意)谷川周辺・神楽・平標・妙高・黒姫・焼岳・吾妻・八甲田など

C残雪期(4月上旬〜6月はじめ)
4月上旬には上信越の1500〜2000mの山の尾根は安定した残雪期を迎えており、ザラメの滑りやすいピストンルートは初心者向きとなる。沢ルートはデブリも多く雪崩に注意。時期がすすむと徐々に山スキーコースは標高の高い地域が適地となり、北アルプス・立山・乗鞍・富士山など3000m大斜面・大雪渓日帰りが可能となる(体力が必要)。新雪表層雪崩に注意。



3.気象の基礎知識とツアーコースの決定:直前の準備・情報収集

冬型(西高東低)の発達と推移:シベリア(大陸)の高気圧の発達と日本海への張り出し、低気圧の発達が重要。初冬・春は日本の沿岸に発生した低気圧・日本海に発生した低気圧(これらが二玉)が発達しながら日本の東岸に進み急速に発達すると危険。
厳冬期は大陸の高気圧が次々と発生(発達)し寒気団を日本へ送り込み大雪・豪雪が続くことがある。(2006年)豪雪地域は危険でありツアーコースとして選択しない方がよい。草津・志賀・上田方面(根子岳・四阿山)、乗鞍、武尊などは日本海気象から太平洋気象との中間であり、冬型のときでも選択できることが多い。ただし強風・低温には注意。パウダー狙いは天気図と近接スキー場の数日前からの天気・降雪状況・気温、風力など情報を連日チェックする。冬型が緩んで高気圧が移動性になったとき(なりはじめた時)が狙い目。関東近辺を低気圧が通過し低温であったときは、根子岳・四阿山・武尊などで降雪が期待される。
良質パウダーが期待できるのは、近接スキー場の最低気温が−7℃以下、最高気温が−3℃以下くらいがよい。標高100mあがるごとに0.6℃下がることを参考にする。これ以上の場合は、湿雪と思われる。強風ではリフト・ゴンドラなどが運転中止になるため注意。
上越・上田方面・妙高近辺・乗鞍・福島など2〜3コースを選択しておき、それぞれの気象状況・降雪状況を直前まで細かくチェックし最終決定する。これが危険を回避し楽しむための秘訣である。


4.種々の状況からみた雪質の理解

標高が高く、気温が低いほど良質のパウダーが期待できる。日本海から離れている志賀・草津・武尊・湯の丸・根子岳・乗鞍などは厳冬期、乾雪パウダーが期待できる。神楽はやや重であるが、最高気温が−5℃以下のときには、乾雪が期待できる。
雪が止むと、圧雪がはじまる。風が強いとパックされる。陽が当るとクラストしやすい。オープン斜面より林間の方が雪質は安定しており、とくに北向きでは良雪が残りやすい。樹木の周囲は窪んでおり転落に注意。(とくに降雪後は隠されていることがある)降雪後急速に気温が上昇すると悪雪になる。春の重い悪雪がもっとも厄介である。
締まった残雪上のザラメは滑走しやすい。クラスト・硬い斜面・氷化は滑落に注意。モナカはターンが難しい。
硬い急斜面のシール登行は滑落の危険あり。(スキーアイゼン・余裕をもってアイゼン登行か引き返す)
登行時に斜面・雪の状況(弱層チェックなど)、クラックの状況(斜面変化:急斜面に移るところなどに多い:上からの滑走時はみえない)、を把握し、滑走ルートを検討する。


5.2006シーズンの事故・遭難からの教訓

@思わぬ豪雪・降雪の連続:
上越の国道・高速での雪崩、道路閉鎖・スキー場ゲレンデでの雪崩、深雪での転倒・転落による窒息死 一晩で40cm以上の降雪・急斜面は雪崩注意

Aシーズン始めの深雪に注意:
圧雪の底が十分形成されずに降雪が続き深雪になると転倒時に窒息状態や、起き上がれなかったり、また体力の消耗が激しい:神楽の中尾根・林間滑走などで注意、沢筋に向かって下りすぎると,あがってくるのが困難なことがある。底なし状態で雪がやわらかすぎる。

B悪雪によるケガ:
大量降雪後、急速に気温上昇し悪雪となるとスキーコントロ−ルが上手くいかず、無理な体勢などで怪我をしやすい。(前武尊定例)

C厳冬期の気温上昇と登行ルートの過ちによる雪崩事故:
1月28日妙高前山(南向き斜面)をシール登行中、傾斜の急になる急斜面のほうへジグを進めてしまった。

D 低気圧の急速な発達による遭難:
3月19日(日)仙の倉での横浜弥勒の会 の遭難,低気圧の発達による天候悪化。予想できたと思われるが前日がまあまあの天候のため強硬したか。

E 冷え込んだ後の春の大量降雪による雪崩多発:
4月8日(土)万座から草津    芳ヶ平ルートも候補にあげたが、前日の冷え込みと降雪がないため、ガリガリルートで苦労し面白くないと思われ、辻本さん(山スキー初心者)に適した、神楽雁ヶ峰ツアールートを選んだ。現地についてみると以外に降雪が多く、神楽の稜線では30c以上の新雪。天気の回復も思わしくなく、雁ヶ峰へのツアーは諦め、中尾根から第5リフトに向かう出できるだけ斜度の緩いルートのパウダーを楽しんだ。当日、中尾根の北斜面に入った山スキーヤーが一瞬のうちに雪崩にまきこまれ100m位流されたとの情報を現地で耳にした。当日は笠岳五の沢・乗鞍天狗原周辺でも雪崩遭難があった。降雪のない状況が続いた北斜面の硬い急斜面が前日の冷え込み、その後の大量降雪で極めて雪崩やすい状況であったと思われる。

F 硬い急斜面のシール登行時の緊張(滑落の危険):
GWに蓮華温泉から白馬大池にアイゼン登行していたが、尾根の最上部でシール登行に切り替えて間もなく、予想できなかった固い急斜面が残っており(やや日陰であったため)滑落の危険性があり緊張した。(過去に俊ちゃんが双六で滑落)

G 行動時間の遅れと気温の急速な低下による危険性:
2005年4月中旬に金山沢ツアーでの出来事です。
栂池のゴンドラが強風のため出発が予定より1時間遅れたが栂池自然園をシールで通過する頃はルンルン気分であった。60歳ほどの他会の女性メンバーがゲスト参加した(ゲレンデは1級の腕前とのことであったが、山スキーは根子岳、乗鞍の経験のみ少し不安であった。)。この方がややバテ気味で船越の稜線に30分遅れで到着したときには、天気も下り坂に向かっており気温は5度から一気に0度近くまで下降した。小休止の後、硬くなりかけた40度近いカールの滑り出し。すぐに斜度はゆるむが、ガリガリになっている。雪面は荒れておりデブリも多い。慎重にターンをしながら高度を下げたが、ゲスト女史が山スキーに慣れてなく、また疲労しており、全くスキーコントロール不能状態となった。なんとか励ましながら、雪の緩んだ安全地帯まで下降し事なきを得た。

H 危険な沢地帯登行時の雪崩
(2005年11月立山・浄土山):11月の立山初滑り一の越 へのトラバース道で雪崩に遭遇することはないということであるが、途中から浄土山へ登る時は尾根状地形を登って行くことが一般的で、安全であるが、浄土山の直下の沢状地帯を登っている時に浄土山の急斜面からの新雪雪崩に巻き込まれたとのことです。






RETURN to HOME