ちばやま

ちば山の会2001年4月

千葉市中央区弁天町5番地鶴岡方

Tel%Fax 043-255-9821



となりのテント


 2月に八ヶ岳に行きました。赤岳鉱泉をベースに『ジョウゴ沢』でアイスクライミングの練習をしました。テントの宴会も終え、早々と寝袋に入りました。
 しばらくして、ふと目がさめると隣のテントがやけにうるさいのです。山岳会の合宿のようです。
そのリーダーはよくしゃべる人でした。クライミングの精神を語り、ヒマラヤ高所登山を語り、山と人生について論じ、日山協や労山などの山岳団体の批評もしていました。なかなかの物知りですが、こういうのをぼうじゃくぶじん傍若無人というのでしょう。(ぼうじゃくぶじん…人前をはばからず勝手気ままな言動をするさま。)

 夜の9時半を少し回って、他のテントは静かです。もし10時過ぎまでやっていたら注意してやろうと思いましたが、幸いその前に終わりました。 それなりの登山家なのかもしれません。でもこの人に「登山家の驕りと独善」を感じ、不快に思ったのは私だけではなかったようです。翌朝それが話題になりました。何人かは寝つかれず、この偉そうな人物の熱弁を聞かされていたのです。
『そんな立派な登山家なら、こんなところには来ないよ』との見解もありました。
結論として、かのリーダーは「最低」の烙印を押されました。
翌日、山から戻ったら連中のテントはありませんでした。おかげで不愉快な人の顔を見ることもなく、わたしたちは喜び合いました。

 昨年9月、大天井のテント場で「伊勢さん」というおじいさんに会いました。
このおじいさんは、私たちが宴会で盛り上がっているところに、隣のテントから来たのです。
小屋で買ってきたのでしょう、冷えた缶ビールをたくさん持ってきました。
 伊勢さんは四国の愛媛から一人で来ていました。立山・黒部アルペンルートの入り口、扇沢に車を残し、北アルプスの山々をめぐって今日で7日目とか、8日目とか言っています。
よほどのベテランかと思えば68歳の時に百名山をテレビで見て山をはじめ、現在は73歳との事。ゆっくりと何日もかけて山を歩き、南アルプスなら光岳から甲斐駒黒戸尾根までが伊勢さんの一回の山行です。北海道の山も東北の山もみんなこの調子です。

 あまりにも悠々自適な山行です。あっけにとられている私達に『わしゃ、遅いから…』と伊勢さんは、はにかんで言います。ちなみに伊勢さんのザックは80リットルぐらいでした。
伊勢さんは話上手な人ではありません。愛媛のこと、やってきた醸造の仕事のこと、家族のこと、これまで行った山のこと。聞けばとつとつと、つつましやかに話してくれました。でもその話は私たちの心に暖かいものを残してくれました。この人に会えたのは大きな収穫でした。
一方、伊勢さんは『久し振りに美味しい物を食べることが出来ました』と大喜びでした。
たぶん7日目、8日目ともなればカップ麺ばかりの食事が多かったのでしょう。
食当・工藤さんの『工藤ナベ』を、カップ麺の容器でおいしそうに食べていました。
別れ際に伊勢さんは渡辺会長の住所を聞きました。
『いつになるか分からないけれども、ぜひ礼状を出したい』と言います。

 今年になって本当に礼状が来ました。


                         山崎 修一

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